高台寺・圓徳院 秋の特別展ごあいさつ

 

「昭和ひとけた京育ち」は、剪紙(切り絵)作家木村祥刀が、最晩年の約一年を通じて京都 新聞紙上に連載した、画業の集大成ともいえる一大絵巻です。その一年の間、祥刀は汲めども尽きぬ泉の如く溢れだす少年時代の記憶を、自らの作品に結晶化さ せただけでなく、自ら絵の中に没入してしまったかのようでした。画家として幸福な時間を過ごしたに違いありません。

しかし、没入した少年時代の幸福な世界はまた、戦争への道につづく、死の予感に覆われ た、困難でつらい時代でした。そのような環境にあっても、当時の子供たちはみな、何かしらの楽しみをつくりだす天才を備えていました。物がなくても創意と 工夫に満ちた遊びと、暮らしの知恵がありました。

それらすべてが、これからご覧になる作品の中にびっしりと描きこまれています。当時を知 る者も、知らぬ者も、きっと斉しく楽しんでいただけることでしょう。そして、私たちは、困難な時代を乗り越える鍵を、昭和の原風景のなかに見つけ出すこと ができるかも知れません。


平成二十三年十月

木村祥刀顕彰会 代表 木村元亮

 



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