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      「黒いキツネ」より  
         
         
    ゆき子は、思わずソーニャの手をとると、門の太いコンクリートの柱のそばにうずくまりました。 「この地図の半分をはやくとってくるんだぞ。」 そういいながら院長はポケットからあの地図をとりだしたのです。 「へへへ……きょうじゅうに きっとソーニャをつかまえて……とりあげますよ。へへへ……」 ゆき子もソーニャも、ぎょっとして息をのみました。

■台詞  ゆき子 「あっ!! いけない」  ソーニャ 「あの……院長もわるい人だなんて……」

 
         
         
         
    そのとき、いきをきってとびだしてきた男が、院長と黒めがねの男によびかけたのです。 「屋上にいましたら、ソーニャらしい女の子と、バタヤのような子がふたり、たしかに病院へしのびこみました。」 「なに!」 ハジキの鉄とよばれた黒めがねの男と院長の目が、ぎくっとひかると、おそろしい顔であたりをさがしはじめたのです。 「あ……どうしよう。」 ゆき子とソーニャは、手と手をかたくにぎりあったまま、身うごきもせずにうずくまりました。

■台詞  男 「た たいへんだ院長! ハジキの鉄あにい!」  院長 「なに どうしたんだ あわてて」

 
         
         
         
    ソーニャは、いまにも泣きだしそうにからだをふるわせながら、おろおろしています。ゆき子とてこわさはおなじです。でも、おちついて、しずかに にげださないと、みつかれば、どんなめにあうかわからない…… そう思うと、ゆき子は男たちのようすをうかがいながら、そーっとうしろをふりむきました。くるときには気がつかなかったけど、よく手いれのできたうえ木が、門のところまでつづいているのです。

■台詞  ソーニャ 「ゆき子さん こわい! みつかったら……」  ゆき子 「しっ しずかにして ソーニャさん」

 
         
         
         
    ひとりづつなら木のかげにかくれてにげだせそうです。ゆき子は、そーっとソーニャをつっつくと、うしろをゆびさしました。 「ソーニャさん、はやく、ささきに にげて!」 そうささやいた時です。とつぜんゆき子たちの頭の上で、大きな声がひびきました。

■台詞  ハジキの鉄 「どこかにかくれているにちがいありませんぜ」  院長 「つかまえたらふたりともただじゃおかねえ」

 
         
         
         
    院長とハジキの鉄が、すぐそばまできているのです。 あっ! ゆき子もソーニャも思わずだきあいました。どきどきするむねがものすごくたかなって、そのたびにゆき子のむねのすずが、ちりちりとかすかになるのです。 かたっとでも音をたてたら、もうおしまい……ゆき子は、すずをおさえて、じーっと目をとじました。  
         
         
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