昭和ひとけた京育ち No.3 「紙芝居」
 
No.3 「紙芝居」

紙芝居

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 「チョーン、チョン、チョン」−小気味よい拍子木の音。手にはしっかり1銭玉を握り、仲のいい友も、けんかをした相手も、歓声をあげて数少ない娯楽だった紙芝居にとび出してくる。

 1銭で買うのは、ジャムかソースをぬったせんべいか、こねて白くなるのを競う水飴(あめ)か、甘い味のついたイカの足のいずれかだ。

 やがて「デデン、デン」と太鼓の音。手に汗を握り、息をひそめ、時には笑いあり涙ありの数十分に胸をときめかせたものだった。

 後年、美術学校の学生となった私は、アルバイトに紙芝居の絵を描いた。幼いころ、かたずをのんだ要点は心得たもの…と。

 でも、それまでのわずか10年ほどの間に、あの戦争、学徒動員、そして敗戦、虚脱、と激しい移り変わりがあった。激動の時代だっただけに、一足飛びには童心にもどれず、描くのに苦労したことを今もはっきりと覚えている。

(絵と文:木村祥刀)

  京都新聞 1994 年 10 月 6 日 掲載


     

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