昭和ひとけた京育ち No.10 「大原女」
 
No.10 「大原女」

大原女

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 「おはな、どーどすえ〜」「はしごやー、くらかけー、いらんかいなぁ〜」

 私が子供のころ、京の町ならではの、ゆったりとした売り声が聞けた。

 大原女、白川女(め)、梅ケ畑の畑の姥(うば)たちが、頭の上に重そうな品をのせていながら、かろやかな声と足どりで行き交っていた。

 「へえ〜上手、ぼん、絵が好きなんやなあ」。ろーせきで地面に絵を描く子供に、大原女の姉さんはよく話かけてきた。

 ある日。真新しい紺木綿の着物で、白い“ゆもじ”をひるがえし、ポーズをとりながら。「大きくなって、画家になったら、姉ちゃんのこの姿を描いて欲しい」と。

 以後、姉さんは来なくなった。他の人はきたのに……。

 今は、八瀬、大原野茶店と売店にしか見られない大原女の姿。絵の約束を果す前に、もう一度聞きたいなあ。町なかで、「おはな〜、ど〜どすえ〜」。

 

(絵と文:木村祥刀) 

1994年10月27日 京都新聞 掲載


     

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