いま、巷(ちまた)では炭火焼きが、もてはやされている。炭焼コーヒーやステーキを焼くのにも大人気とか。
伝統の味を守る料理店では、昔から変ることなく、炭火を使い続けているんだけれど。
戦前から戦後、昭和20年代ぐらいまでは、家庭燃料の主役はガスとりも炭とマキだった。
子供たちも、土製のコンロ(七輪)の扱いには手なれたもの。下部の穴に向けて、うちわで風を送って炭をおこし、煙を立てながらサンマやイワシを焼いた。
ご飯を炊くにはマキを使ったが、炊き上がりのおいしかったこと。お釜(かま)の底のおこげなんて、コリコリとして、香ばしくって、風味は満点。ご飯炊きは
率先して、おくどさん(かまど)の前に陣どり、「初めチョロ、チョロ、中パッパ」なんて言いながら、よけいにおこげをつくったりして。
炭火のブームで改めて思うのだが、戦前、戦後と、この国が貧しかったころに育った昭和ひとけたこそ、食べ物の本当のおいしさを味わっていたのではないか。最近はしきりに、そんな気がする。
(絵と文:木村祥刀)
1994年11月9日
京都新聞 掲載
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