昭和ひとけた京育ち No.16 「洗濯」
 
No.16 「洗濯」

洗濯

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 子供が4、5人もいて、雨の降った翌日などは、洗濯ものが山のよう。

 日曜日なのに、母は早朝から「ギッコン、ザー」と、井戸水をポンプで、くみ上げる。大きな木のたらいに、ギザギザの横溝がついた洗濯板を立てかけ、その上に汚れた衣類を置く。手でもんで洗い、すすいでは絞り…。大へんな力仕事で一日が始まる。

 雨の日の子供たちの衣類は、水たまりで跳びはねたり、ころんだりで、ドロンコ。それを母は笑いながら、黙って「ゴシゴシ、ゴシ」。

 11月の京都の早朝は、そろそろ寒くて、水も冷たい。白かった手が、みるみる赤くなってゆく。

「おかあちゃんの手の指、また、去年みたいに割れるかな…」。去年は“ひび”と“あかぎれ”の手をかくして「平気、平気」と笑ってた。でも、寝る前、そーっと薬をつけながら、顔をしかめて、こらえているのを見て、つらかったのに、またドロンコ遊びをしてしまって。

(絵と文:木村祥刀)

1994年11月10日 京都新聞 掲載


     

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