昭和ひとけた京育ち No.18 「下駄直し屋さん」
 
No.18 「下駄直し屋さん」

下駄直し屋さん

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 「なー、なーし」。ゆったりした声で呼びかけて、軒下に荷物をおろすと、そこが下駄(げた)を直すおじさんの仕事場になる。

 履きくたびれた利休下駄、日和下駄に紅緒の“おこぼ”をあざやかに再生していく。

 「ぼん、これは京下駄や。後歯のうしろに鼻緒の穴があるやろ。それだけ鼻緒が長くなるんや。鼻緒が長いと、足が下駄にぴったりついて歩きやすいんや。昔の京都の人は、えらい。よう考えたもんやでえ」

 たくさんの下駄の中に、京下駄があると、うれしそうにニコニコしながらしゃべったおじさん。ところが、ある時から、すっかり無口になってしまった。近所のおばさんの話では、息子さんが2人とも兵隊に行ってしまったとか。

 おじさんは手を休め、たばこを吸って、昼ご飯の弁当のふたをとる。ご飯の真ん中には梅干が一つ。日の丸弁当だ。おじさんは目をしょぼつかせて、弁当の日の丸を見つめていた。

(絵と文:木村祥刀)

1994年11月16日 京都新聞 掲載


     

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