昭和ひとけた京育ち No.19 「糸でんわ」
 
No.19 「糸でんわ」

糸でんわ

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 反物のしんにボール紙の筒がある。それを母からもらうと、10センチぐらいの長さに二つ輪切りにして、両方とも底をつくるようにセロハン紙を張り、さらに糸をつけて結ぶ。

 二人が筒を持ち、糸をピンと張って筒に口をつけ、ボソ、ボソボソ。セロハン紙に声が振動して、小さな声でもよーく聞こえる。これが糸でんわ。

 ウナギの寝床の京都の家では、表の部屋から奥の部屋まで糸を長くしても、聞こえる、聞こえる。

 「晩のおかず、なんや」「さあー、なんやろ」

 台所では包丁の音が、忙しそうにトントントン。

 糸でんわをつくっても、特別に話すことってない兄妹。長い沈黙があって、後は照れ笑い。部屋では、おぜんの足を立て、茶わんとおはしを置く音がする。

 「もうすぐ、お父ちゃんが帰ってくるなあ」

 間もなく、祖父と祖母、父と母と4人の子供たちのにぎやかな夕食が始まる。

 (絵と文:木村祥刀)

1994年11月17日 京都新聞 掲載


     

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