反物のしんにボール紙の筒がある。それを母からもらうと、10センチぐらいの長さに二つ輪切りにして、両方とも底をつくるようにセロハン紙を張り、さらに糸をつけて結ぶ。
二人が筒を持ち、糸をピンと張って筒に口をつけ、ボソ、ボソボソ。セロハン紙に声が振動して、小さな声でもよーく聞こえる。これが糸でんわ。
ウナギの寝床の京都の家では、表の部屋から奥の部屋まで糸を長くしても、聞こえる、聞こえる。
「晩のおかず、なんや」「さあー、なんやろ」
台所では包丁の音が、忙しそうにトントントン。
糸でんわをつくっても、特別に話すことってない兄妹。長い沈黙があって、後は照れ笑い。部屋では、おぜんの足を立て、茶わんとおはしを置く音がする。
「もうすぐ、お父ちゃんが帰ってくるなあ」
間もなく、祖父と祖母、父と母と4人の子供たちのにぎやかな夕食が始まる。
(絵と文:木村祥刀)
1994年11月17日
京都新聞 掲載
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