昭和ひとけた京育ち No.20 「ぱちんこ」
 
No.20 「ぱちんこ」

ぱちんこ

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 ふたまたの木にゴムひもを結び、ひもの真ん中には小石をはさめるように厚手の布をつける。ギューッ、と弓のように引いてはなすと、小石が勢いよく飛んでゆく。

 「シーッ」と女の子たちの声を遮って、目はギンギラの悪童連中。

 人は懸命に仕事に取り組む姿、顔がもっとも美しく、子供は夢中で遊んでいる時の顔、瞳(ひとみ)が一番生き生きと輝いている、と言うが…。

 女の子たちの息をのむ顔。何を狙っているのか、腕白坊主の鋭い目つき。

 昭和12年7月7日、中国・北京郊外の盧溝橋で、一発の銃声とともに始まった日中戦争。戦いが日に日にエスカレートしてゆくなかで、子供たちの遊びも、勇猛果敢という名の殺伐なものに変りつつあった。

 子供は親の鏡、世相の鏡とか。生き生きと輝いた顔、瞳などとは言っていられない時代が、子供たちの上にも、ひたひたと押し寄せていた。

(絵と文:木村祥刀)

1994年11月22日 京都新聞 掲載


     

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