戦前のお母さんたちは、朝早くから炊事にそうじ、洗濯、ひと息つく間もなく買い物、夜の食事とあと片付け、ふろをすませても夜なべで衣服や靴下のつぎあて…と一日中、力仕事と根仕事の連続だった。
それだけに子供たちも、手伝いはよくやった。なかでも、われ先にとりあった手伝いの一つは、忙しい母を少しの間でも独占できる毛糸まき。
汚れたセーターをほどき、束ねて洗濯をし、編み直す前にマリのように巻く。巻くために、束ねた毛糸を両手にかけているのが子供たちの手伝い。
こんな時、母はきまって「千里の道も一歩から」「チリもつもれば山となる」なんてことわざを、解説つきで次々と話し出す。いつもながら一目散で逃げ出すところが、母を一人占めしたうれしさで、にっこり笑い素直なこと。
「親の意見と“なすび”の花は 千に一つの無駄もない」そうだし。 (絵と文:木村祥刀)
1994年11月29日
京都新聞 掲載
|
|