昭和ひとけた京育ち No.26 「紙ふうせん」
 
No.26 「紙ふうせん」

紙ふうせん

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 「あーめが、ふーりまあす、あーめが、ふーるうー」。どこかの家から、女の子のものうげな歌声が聞こえる。空を見上げながら歌っているのか、てるてる坊主でも作りながらか。

 今日は朝から雨ふり。軒下にも、だれも遊んでいなくて、しょうむない(つまらない)日曜日。と、思ったら、小さな裸電球がついた薄暗いろーじの中で、女の子たちが「ポーン、ポーン」と、軽やかに紙ふうせんをついている。

 ふうせんの中には細かく切った紙きれが入っていて、ふうせんが舞い上がるたびに電気の光を逆光にうけ、影絵のチョウか小鳥が群れ飛ぶようにも見える。

 「きれい」。女の子たちは、言葉少なく夢見るように、それぞれの思いでメルヘンの世界に遊ぶ。

 そばで見上げていた子が、ぽつんとつぶやいた。

 「お月さんの中で、ウサギがおもちつきしてる」。

  (絵と文:木村祥刀)

1994年12月7日 京都新聞 掲載


     

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