「29日のもちつきは、苦もちとゆうて縁起が悪い」
戦前は今以上に日にこだわり、思わしくない日をさけて近所二、三軒が集まり、なごやかにもちつきをやった。
早朝からおくどさん(かまど)の火を真っ赤に燃やし、冷えきった土間が温まったころ、三段重ねのせいろから勢いよく湯気が吹き出して、もち米特有のいいにおいが立ちこめる。
「そろそろやな」とせいろのモチ米を石臼(うす)へ。軽い小づきがあって、つく人と臼取りの人の息の合ったかけ声で「イヨッ」「ホッ」「ドッコイショ」。合間にもちを取り上げ、空づきをさせて大笑い。
子供たちはお鏡づくりの手伝いと、小もちの丸め役。顔まで真っ白い粉をつけて、失敗作は口の中に。
あの、和気あいあいの杵(きね)の音も、今は昔―。
(絵と文:木村祥刀)
1994年12月15日 京都新聞 掲載
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