あれは昭和14年の節分の日。向かいのお姉さんが、髪を赤い鹿の子の手絡(てがら)をかけた桃割れに結って、ニッコリほほ笑んだ。
「きれいな
“おばけ”
やこと」。お姉さんに声をかけた近所のおばさんの髪は島田。おばけと聞いてびっくりする僕に、お姉さんが話してくれた。
女の子が桃割れに結うのは、早くいい娘になるようにとの願いがこめられ、娘さんは丸髷(まげ)にして良縁を、おばさんの島田は若返りを願って、化けてお参りにゆくのが、京都の楽しい習慣だとか。
そして翌年の節分。お姉さん、また化けてるかなと、こっそりのぞくと「戦争も激しゅうなって、のんびりしたことをしてたら兵隊さんに申し訳ないし」と、お姉さんの長い髪は、活動的な三つ編みに束ねられていた。
パーマネントが禁止され、女性のおしゃれが奪われたのが、昭和14年6月だった。
(絵と文:木村祥刀)
1995年 2月2日
京都新聞 掲載
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