昭和ひとけた京育ち No.44 「だるまストーブ」
 
No.44 「だるまストーブ」

だるまストーブ

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 3時間目の授業が始まるころ、教室中にホワーンといいにおいが立ちこめる。赤々と燃えさかる丸型のだるまストーブ。その回りの棚に置かれたお弁当が、ほどよく暖まったにおいだ。

 去年の冬はいろんなおかずのにおいが入りまじっていたけれど、今年からはみんな梅干し一つの日の丸弁当で、においもただすっぱいだけ。でも急におなかが鳴り始めて、気もそぞろ。

 昭和14年9月。戦地の兵隊さんの苦労をしのび、毎月1日を「興亜奉公日」と定められ、国旗掲揚に宮城遙(よう)拝、そして弁当のおかずは梅干しときめられた。

 ところが母は、見た目だけでも楽しくなるよう、真ん中の梅干しからシソの葉を放射状に伸ばして海軍旗にしたりと、アイデアをこらしてくれた。たちまちみんなの評判になって「今日は日の丸か、それとも…」と、当てっこをしながら昼ごはんを待ちわびたものだった。

  (絵と文:木村祥刀)

1995年 2月14日 京都新聞 掲載


     

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