「春こうろうの〜花の宴〜」。
口ずさむ父と、日曜日ごとに清水寺や円山公園を散歩した幼かったころ、帰り道はきまって肩ぐるまだった。
見上げて通った満開の桜が、こんどは目の前いっぱいに広がって、花びらを浴びたり、実りの秋には、柿やザクロの実がおでこにコチン、なーんてこともあって楽しかった肩ぐるま。
銭湯へ行く時は、殿様きどりでそっくり返り、唐破風の入り口を、城に入るような気分でのれんをかきわけたものだった。
中に入ると、逆にこちらがお返しの大サービス。大きくて壁のように広い父の背中を、せっけんの泡にまみれて、力いっぱいゴシ、ゴシ、ゴシと。
あれから…数十年。ふろに入った父の、細く、小さくなった背中を見て、流すことも出来ずに、ただぼんやりと見つめていた。
「昔の光、今いづこ」と。(絵と文:木村祥刀)
1995年 3月15日
京都新聞 掲載
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