昭和ひとけた京育ち No.60 「真夜中」
 
No.60 「真夜中」

真夜中

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 「ボーン」と振り子の柱時計が不気味に響いて、なんと深夜の1時。おしっこに行きたくて、我慢に我慢をしていたけれど、もう限界だ。「エイッ、僕も男や」と跳び起きて、でもやっぱり怖くて、胸はドッキン、ドッキン。

 昔の家の便所は、たいてい縁側の隅か外にあって、暖かくなると雨戸は開けっ放し。風で庭の植木の葉っぱが「サワサワ」と音をたてるだけで、ゾッとする。

 息をつめ、横目で周りを確かめて、抜き足、差し足、忍び足。突然、「キキキッ」。開けた便所の戸がきしんで、「ギエーッ」と転がるように逆戻り。

 でも、もう、もうあかん。ドスン、ドスンと縁先の板を踏みしめながら、「勝ってくるぞと、勇ましくー、誓って国を出たからにゃー」。

 これでも戦前の子供たちは「男は強くたくましく」と言われ続けていたんだけれど。

(絵と文:木村祥刀)

  1995年 3月28日 京都新聞 掲載


     

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