お母ちゃんが着物を手にとって、さびしそうな顔で眺めながら、そーっとはさみを入れ始めた。びっくりして見ていたら、しばらくして出来上がったのが、もんぺ。
「なんや、しょーむな」。学校の保護者参観日に、ひと際目立ってきれいだったお母ちゃんの矢がすりの着物姿が、もう見られへんのか。
そんな思いと同時に、キューンと身がひきしまったのを今も覚えている。戦争(日中戦争)も、厳しくなってきたんや、ぼくらものんびりとしてたらあかん、と。
昭和15年11月。「大日本帝国国民服令」が公布され、大人の男子は軍服に似たカーキ色の国民服に足元はゲートルを巻くこと、女子は子供までもんぺの着用を奨励された。
深夜、ふすまの向こうでまた、はさみの音がして、なんだか先行きが不安だった少年時代。(絵と文:木村祥刀)
1995年 4月12日
京都新聞 掲載
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