「なべーえ かまのーいかけぇー」
なべや、かまの修理をするいかけ屋さんの声に、たちまち水もれのする、やかんやなべが集まって、おじさんは道具を広げ、フイゴの火を起こし始める。
戦前は、よほどの大店でないかぎり、普通の家庭で使うなべ類の数はわずかで一つで煮る炊くと万能だっただけに、傷みも激しくて、衣服と同じように修理しては、とことんまで使ったものだった。
ガシャン、ガンガン。傘や下駄の直し屋さんと違って、いかけ屋さんの仕事は、にぎやかなこと。傷んだところをくり抜いてブリキを当て、びょうやハンダで固定して、平になるまで金づちでたたき続ける。
子供好きのおじさんが、手招きをしても遠慮して、耳をふさいで遠くで眺めるだけだった。
「使い捨て」のない、つましいころの貴重な仕事の一つだった、いかけ屋さん。
(絵と文:木村祥刀)
1995年 5月18日
京都新聞 掲載
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