コリコリと歯ごたえがある甘いハスの実。根はレンコンだけど、このかっ色の実のおいしかったこと。
戦前、東山の西大谷本廟(びょう)のメガネ橋の下の池は、一面、ハスで埋まっていた。
真夏に、白と淡紅色の花が咲いた後は、倒円すい形の花床が、どんどん大きくなって、ハチの巣のような穴の中に青い実が見えはじめると、だれもが、こしたんたんとねらいはじめる。
石造りのメガネ橋の上からのぞき込んで、数をかぞえて熟すのを待って一番乗りの日を指折り数えたものだった。
当時の東山は、ふもとのあたりまで樹(き)がうっそうと茂っていて、秋にはシイの実や甘いムクの実、ムカゴなどが鈴なりに実っていた。
そろそろおやつも乏しくなってきた時代、半日も山にもぐり込むと、袋いっぱいに実がとれて、弟たちの歓声を思いながら得意顔で家路についたものだった。
(絵と文:木村祥刀)
1995年 6月22日
京都新聞 掲載
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