昭和ひとけた京育ち No.97 「メダカとり」
 
No.97 「メダカとり」

メダカとり

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 京の五条の橋の上 大のおとこの弁慶が 長いなぎなた振り上げて 牛若めがけて切りかかる

 五条大橋のたもとから、鴨川の河原におりるとき、いつも口ずさんだ牛若丸の唄(うた)。

 「わあー 今日はメダカがいっぱいいる」。

 「牛若丸もメダカとりしたやろか」。

 子供たちは手ぬぐいをひろげて、そーっとすくい上げると、とれる、とれる。小さな黒い体が、真っ白い手ぬぐいの中でびっくりしたように右往左往する。

 「一回で百匹ぐらいとれたぁ、今日は千匹とるぞ。弁慶も刀を千本とったし」「違うわぁ 九百九十九本や、牛若丸は強うて、刀とられてへんもん」。

 戦前、まだ自然がいっぱいだった鴨川。

 水量もあり、悠然と流れていた古都の川も、今はすっかり姿をかえて、メダカもどこへいったやら。

(絵と文:木村祥刀)

  1995年 6月27日 京都新聞 掲載


     

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