「勝ってくるぞと勇ましく、誓って国を出たからにゃー、手柄たてずに帰らりょかぁ」。ザック、ザック、ザクと重々しい軍靴のひびきと、赤いタスキの出征兵士。送る人は日の丸の小旗を振りたて、送られる人は、キリッと口元をひきしめて敬礼をくりかえす。
昭和16年も後半になると、毎日のように二度と会えないだろう別れがあった。思えば昭和ひとけた世代は、もの心ついたころから、成長とともに戦争も拡大してゆくというめぐりあわせにあって、やがて運命の日、12月8日を迎えた。
「大本営発表、帝国陸海軍は、本日未明、西太平洋において、米英軍と、戦闘状態に入れり」。
ラジオから流れるアナウンサーの声に、見送りつづけた兵隊さんたちの姿がよみがえり、身のひきしまる思いで聞いていたことを、はっきりと覚えている。
(絵と文:木村祥刀)
1995年 7月11日
京都新聞 掲載
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