「ピチャン」と蚊をたたく。いらだって足や腕をかきむしりながら、ひたいの汗をぬぐう。
「ぼん、あかん、また王手や、桂馬うっとかな負けやでえ」。岡目八目のおじさんたちの、うるさかった夏の夜の縁台将棋。
クーラーどころか扇風機すら、あまりなかった戦前の夏。日暮れともなると、待ちかねて家の外に床几(しょうぎ)を持ち出して始まるのが将棋だった。
本将棋あり、はさみ将棋や将棋倒し、つみ上げたコマをくずさないように一つづつ抜きとったりと、遊びはいろいろだったけれど、大人も子供も和気あいあいで、真夏の夜を楽しんだものだった。
「わいは坂田三吉やあ、だれでもかかってこい」。ガキ大将はなぜか遊びは万能で、いつもコテンパン。今はガキ大将も、近所の人たちの親しげな姿もない。
(絵と文:木村祥刀)
1995年 7月12日
京都新聞 掲載
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