ベンガラ格子に、ばったり床几(しょうぎ)、それは京の町家のなつかしい表構えだ。
ばったり床几は門口の寄りつきに取りつけられた揚げ棚で、太い脚をたたんだ重厚な床几と、繊細な格子は対象的で、美しい表情だった。
昔は商いの品物を並べた揚げ棚も、僕らの子供のころは、もっぱら遊びの場だった。
「おままごとするし、ばったり下ろしてえ」。女の子にせがまれて力をかしてやると、「おおきに、はばかりさん、まあおぶ(お茶)でもお飲みやす」。とかなんとか言ったりして、もうお母さん役になりきって、ふるまっている。
「あほらし」と退散する男の子に目もくれず、楽しそうなままごとが始まる。今、街の中にわずかに残るばったり床几も、上げられたままで、もう遊びの場ではなくなってしまった。
(絵と文:木村祥刀)
1995年 7月13日
京都新聞 掲載
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