木村二瓶子 短歌秀作選

 

遺墨1    
轆轤場の硝子戸通し春の陽の

          壺とわれとにふりそそぎ居り

 
吉井勇評:五条坂は陶工の多いところで、京都でも特殊の風景がある。

これはその仕事場をうたつたもので、春の日の射し込んだ工房の風景

が絵画的で美しい。  (昭和三十一年五月九日・京都歌壇掲載)

 
 
 
 
陶器描く傍(かた)へに蟷螂忍び来て

          われの心をのぞくが如し

 
吉井勇評:如何にも京都の五条坂あたりらしい風景であつて、陶工の家の

描写がしつかりしている。ことにカマキリを点出して来たところ色彩感も鮮や

かであつて陶工らしい作品といつたらいいであらう。  (京都歌壇掲載)

 
       
遺墨2    
李朝期の印黒の壺のやわらかき

          肌のまるみをいつまでも撫づ

 
 
 
李朝期の黒花の壺を写生して

          その曲線をいくたびか消す

 
 
 
工房の片隅にありし露草に

          遭ひしよろこび壺に写しぬ

 
 
 
瑠璃に晴る秋は深まり深まりて

          工房の土掌につめたく

 
 
 
石段をのぼる歩調をゆるくして

          音羽の滝をふりかへり見る

 

 

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