戦前の道は、ほとんどが石ころのころがる土の道だった。大通りだけがアスファルト舗装で、ここが豆画伯たちのキャンバスになった。
当時、駄菓子店で「ろーせき(蝋石)」という石の破片を売っていた。これは耐火レンガの原料で、印材にも使われる。それが子供たちの絵を描く遊び道具だった。
道路がキャンバス。画面は広大。好きなだけ描ける。あこがれの乗り物や「のらくろ」「冒険ダン吉」など、人気漫画の主人公を、夢中になって描きつづけた。
女の子たちの注文で、アメリカ漫画の「ベティ」なんかを描いてやると、「キャッ、キャッ」の歓声。画伯の鼻はヒック、ヒク。
昔も今も、子供たちは、豊かな空想と表現するエネルギーに満ちあふれている。小さな紙に描かせるより、ふすまだって、壁だって、伸び伸びとキャンバスがわりにさせればいい。
(絵と文:木村祥刀)
京都新聞
1994 年 10 月 26 日掲載
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